住宅用太陽光発電設備とアマチュア無線アンテナ
― 現地調査で「見えているのに認識されない」問題について ―
住宅用太陽光発電設備や蓄電池設備の普及が進んでいます。
私自身、太陽光発電そのものに反対しているわけではありません。再生可能エネルギーを適切に活用していくことには意義があると思っています。
しかし一方で、住宅用太陽光発電設備を構成するパワーコンディショナー、蓄電池、直流配線、交流配線などから発生する不要電波や高周波電流が、近隣の無線設備に影響を与える可能性があります。
これは単なる心配ではありません。
総務省は、令和6年5月14日付で、一般社団法人日本電機工業会(JEMA)および一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)に対し、
「太陽光発電システムを原因とする無線通信への障害防止について(依頼)」
という正式な依頼文書を出しています。
この文書では、太陽光発電システムからの不要な電波発射が無線設備に障害を与えた事例が相次いでいること、さらに住宅用太陽光発電システムの一部機器が、地方公共団体の防災行政無線や消防・救急デジタル無線等の人命に関わる無線設備に障害を与えた事例もあることが明記されています。
また、重大かつ継続的な障害を与えた場合には、電波法第101条において準用する第82条第1項に基づく障害除去命令の対象となり得ることも示されています。
参考:
総務省「太陽光発電システムを原因とする無線通信への障害防止について(依頼)」
■ 現地調査で確認すべきことは、すでに業界資料にも書かれている
住宅用太陽光発電設備の販売規準や、NEDOの建物設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン等では、近隣にアマチュア無線局などがある場合、通信環境への影響に配慮する趣旨の記載があります。
つまり、
「近くにアマチュア無線局があるか確認する」
という考え方自体は、すでに業界資料の中に存在しています。
しかし、ここで大きな問題があります。
現地調査を行う営業担当者、設計担当者、施工担当者が、
「どれがアマチュア無線のアンテナなのか」
を知らなければ、確認のしようがないのです。
屋根の上や庭、ベランダ、タワー、ルーフタワーにアンテナが見えていても、それがテレビアンテナなのか、アマチュア無線用アンテナなのか、高感度受信設備なのかを判断できなければ、現地調査票には反映されません。
つまり、現場では、
「見えているのに、認識されない」
ということが起こり得ます。
■ アマチュア無線アンテナの図解資料を作成しました
そこで、代表的なアマチュア無線アンテナの形状をまとめた図解資料を作成しました。
タワー、ルーフタワー、大型八木アンテナ、V型ダイポール、ロータリーダイポール、ワイヤーアンテナ、GPアンテナなど、住宅地でも見かける可能性のある代表例をまとめています。
また、UHFテレビ受信アンテナとの違いも入れました。
もちろん、アンテナの種類は非常に多く、この図ですべてを網羅できるわけではありません。八木アンテナなどは、テレビ受信用やFM受信用のアンテナと似て見える場合もあります。
だからこそ、断定ではなく、
「こういう設備が見えたら、近くにアマチュア無線局や高感度受信設備がある可能性がある」
「分からなければ確認する」
という考え方が大切です。
アンテナ図解資料:
■ 提言PDFも作成しました
あわせて、住宅用太陽光発電設備等における近隣無線設備への影響防止に関する提言PDFも作成しました。
この提言では、電波法第101条が、無線設備以外の設備にも第82条第1項を準用する趣旨を整理しています。
太陽光発電設備や蓄電池設備そのものは通常「無線設備」ではありません。しかし、それらが副次的に発する不要電波や高周波電流によって、無線設備に継続的かつ重大な障害を与える場合には、電波法上の監督対象となり得ます。
提言書では、以下のような点を整理しました。
・現地調査時に、近隣のアマチュア無線アンテナや高感度受信設備を確認すること
・PCSや蓄電池等の型式を確認し、CISPR 11第6.2版以降の基準に整合した機器を選定すること
・直流配線、交流配線、接地、遮蔽、不要なループ、ノイズフィルタ等について、施工前に検討すること
・系統連系前後に、必要に応じてノイズの有無を確認すること
・万一障害が発生した場合の窓口、調査、対策、費用負担の考え方を事前に整理しておくこと
・販売、設計、施工、現地調査、担当者教育、チェックリストへ反映すること
提言PDF:
■ すでに一部から反応もいただいています
この提言書とアンテナ図解資料は、関係団体、ハウスメーカー、施工会社などへ順次提供しています。
すでに一部のハウスメーカーからは、
「関係部門へ共有し、今後の業務改善に活用する」
という趣旨の回答もいただいています。
また、住宅メーカーと話し合う予定のあるアマチュア無線家の方からも、「参考資料として活用したい」という反応をいただきました。
これは、単に資料を作っただけでなく、実際の現場で使われ始めているという意味で、とても重要だと思っています。
■ 目的は「反対」ではなく「共存」です
繰り返しますが、私の立場は、太陽光発電に反対するものではありません。
問題にしたいのは、太陽光発電設備そのものではなく、
「事前に確認しておけば防げる近隣トラブルが、確認不足のまま発生してしまうこと」
です。
設置後に受信障害が発生すると、困るのはアマチュア無線家だけではありません。
施主さんも困ります。
近隣住民も困ります。
ハウスメーカーや施工会社も対応に追われます。
機器メーカーも調査や対策を求められます。
それならば、契約前・設計前・施工前の段階で、確認できることは確認しておく方が、全員にとって良いはずです。
反射光については、住宅用太陽光発電設備の設置時に近隣への配慮が必要だという認識が広がっています。
同じように、不要電波や高周波電流による無線設備への影響についても、
「事前に確認する」
という文化が広がってほしいと思っています。
■ 防げる近隣トラブルを、契約前・施工前に防ぐ
今回作成した提言PDFとアンテナ図解資料は、アマチュア無線家だけのための資料ではありません。
むしろ、ハウスメーカー、販売会社、施工会社、自治体、業界団体の方々にこそ見ていただきたい資料です。
現地調査で何を見ればよいのか。
どのような設備が近隣無線設備の可能性を示すのか。
どのような公的資料や業界資料があるのか。
どの段階で確認しておけばよいのか。
こうした点を整理することで、太陽光発電設備と近隣の電波環境は、十分に共存できると考えています。
防げる近隣トラブルを、契約前・施工前に防ぐ。
そのための一つの材料として、この提言書とアンテナ図解資料を活用していただければ幸いです。
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