【WSJT-X Improved 3.2.0 / 260818版 リリース】2026年08月18日 16時17分58秒

【WSJT-X Improved 3.2.0 / 260818版 リリース】

本日、WSJT-X Improvedの新しい3.2シリーズがリリースされました。

https://sourceforge.net/projects/wsjt-x-improved/files/WSJT-X_v3.2.0/

今回のアップデートは、一言で言えば、

「6mを含むEME/Q65運用の大幅強化」+「普段FT8/FT4を使っている人にも役立つ細かな改善と修正」

です。

リリースノートは英語でかなり専門的なので、「結局何が変わったの?」という方向けに、日本語で少し噛み砕いてまとめてみます。

なお、これはJoe Taylor K1JTらによるWSJT-X本家そのものではなく、DG2YCB Uwe氏が開発している WSJT-X Improved の新バージョンです。


■ ウォーターフォール上のコールサイン表示がさらに実用的に

3.1で追加された「ウォーターフォール上へのコールサイン表示」が改良されています。

CQを出している局は緑背景で表示。

現在DX Call欄に入っている局、つまり自分が狙っている相手は、Band Activityと同じように赤背景+白文字で表示されます。

さらに大きな変更として、ウォーターフォール上に表示されているコールサインを直接クリックできるようになりました。

ダブルクリックすれば、その局とのQSOを開始できます。

WSJT-Xでは、この機能を使う場合「Hold Tx Freq」がONである必要があります。

つまり、ウォーターフォールが単なる「見える表示」から、実際の運用操作にも使えるインターフェースへ進化しています。


■ 6m EME向けの「liveCQ」が大幅強化

今回の3.2で最も大きなテーマの一つです。

W7GJ Lance氏による予定されている6m EME DXpedition H44GJ を念頭に開発された機能で、Q65 Pileup運用を強力に支援します。

通常のスポットというと「○○局がここに出ている」という情報を送るイメージですが、今回のliveCQは少し違います。

各局が受信したすべてのQ65メッセージをN6NU氏が用意した専用サーバーへ送り、そこで情報を集約します。

これによってDXpedition局側は、

「今、自分の信号を実際に受信できている局は誰なのか」

をActive Stations画面で、ほぼリアルタイムに確認できます。

EME、特に6m EMEでは伝搬状況が非常に厳しく、「呼んでいる局」だけでなく「そもそもこちらを受信できている局」が分かることには大きな意味があります。

QMAP、MAP65からも新しいliveCQサーバーへスポットでき、さらに複数のURLへ同時に送信することも可能になりました。


■ QMAP v1.0 ― 「Click-to-Work」搭載

QMAPも正式にv1.0へ進化しました。

一番分かりやすい新機能が Click-to-Work

コールサインのオーバーレイ、デコードされたメッセージ、Band Map上のコールサインなどをクリックすると、

・コールサイン
・周波数
・Odd/Evenの送受信タイミング
・Q65サブモード

といった情報がWSJT-Xへ自動的に渡されます。

そしてダブルクリックすればQSO開始。

つまり「見つける→情報をセットする→呼ぶ」という操作が、かなり直接的になります。

WSJT-X側はQ65モードで、VHF featuresを有効にしておく必要があります。

さらに、

・QMAPを複数同時起動可能
--rig-name=NAMEで個別管理
・複数のWSJT-XとQMAPをそれぞれペアリング可能
・Band Mapウィンドウ追加
・Astro DataやBand Mapを開いていた状態を次回起動時に復元
・N6NU SDR bridgeの最新機能、複数sliceにも対応

など、SDRを使った本格的なEME環境をかなり意識した進化になっています。

設定やデータの保存場所もWindowsでは

AppData/Local/QMAP

へ変更。

旧ディレクトリのデータは初回起動時に自動インポートされます。


■ MAP65 v4.0 ― WSJT-Xとの連携が大きく変わった

MAP65もv4.0になり、こちらもEMEをやっている人にはかなり大きな変更です。

新しい方式では、

MAP65=広帯域受信担当
WSJT-X=実際のQSO担当

という使い分けが可能になりました。

MAP65はxPolを含む広帯域受信を担当し、実際の送受信シーケンス、CAT制御、AutoSeq、ログなどはWSJT-X側で処理できます。

これはかなり合理的な構成です。

MAP65で見つけた局をクリックすると、その情報がWSJT-Xへ渡され、WSJT-X側でそのままQSOできます。

さらにMAP65とWSJT-Xを同時に受信させることも可能。

MAP65の広帯域受信と、WSJT-Xの高感度なナローバンドデコーダーを同時に使って、同じ信号のデコードを試みることができます。

MAP65にもQMAPと同様のClick-to-Workが実装されました。

その他、

・IQストリーム192kHz帯域幅対応
・従来の96kHz / 95.238kHzとの互換性維持
・Q65のDecode Depthを設定可能
・過去のTR周期を再デコードする実験機能
・Astro Data / Band Map / Messagesのウィンドウ状態を記憶

なども追加されています。

MAP65の設定保存場所も

AppData/Local/MAP65

へ変更されます。


■ ここからは普通のFT8/FT4ユーザーにも関係する変更

EMEをやらない人は、むしろここからが重要です。

1. wsjtx_log.adiの保存場所とファイル名を自由に指定可能

これまでは基本的に決められた場所にあったwsjtx_log.adiですが、保存先とファイル名を指定できるようになりました。

例えば、

・NASやネットワークドライブへログを置く
・ユーザーごとに別ログを使う
・運用環境ごとにログを分離する

といった使い方が容易になります。

Settings → Reporting → Loggingから設定できます。


2. Highlight orange / Highlight blueがさらに強力に

プレフィックス指定で、

* ワイルドカード
! 除外指定

が使えるようになりました。

例えば、

;K*;!KH6!KL!KP!

のように指定すれば、Kで始まる対象を広く指定しつつ、KH6、KL、KPなどを除外する、といった設定ができます。

DXingをしている人にはかなり便利な機能です。

なお書式にはルールがあり、

コールサイン・グリッド → カンマ区切り
プレフィックス → セミコロンで囲む
ワイルドカード → 1文字プレフィックスの後のみ使用可能
2~3文字プレフィックスの除外 → !で囲む

という仕様です。


3. PWR / SWRに加えてALCも表示

対応している無線機では、送信中の

PWR / SWR / ALC

をWSJT-X上で確認できるようになりました。

さらにALCが高い場合、黄色や赤背景で警告表示することもできます。

デジタルモードではALCの管理は重要なので、対応リグを使っている人には実用的な改善です。


4. DX Callに入っている局だけを一時的に表示

CQまたはCQ/73チェックボックスを右クリックすると、

DX Call欄に現在入っている局との送受信メッセージだけを表示できます。

混雑しているバンドやDX pileupで、特定局とのやり取りだけを追いたい時に便利そうです。


5. 送信中のバンドボタン誤操作を防止

送信中にうっかりバンドボタンをクリックして、周波数を変えてしまう事故を防ぐようになりました。

「Allow Tx frequency changes while transmitting」を有効にしている場合だけ、送信中の変更が許可されます。

地味ですが、実運用ではありがたい安全対策です。


6. コンテストログ関連の修正

コンテストモードでは<state>タグを書き込まないよう変更されました。

このタグが原因でログ処理上の問題が発生していたためです。

また、

「ARRL Field Dayモードに切り替えますか?」

のような警告も、同じセッション中に何度も出ず、1回だけ表示されるようになりました。

コンテスト運用者には嬉しい改善だと思います。


7. RRRメッセージにも国名・ハイライト表示

これまでのCQ等だけでなく、RRRを含むメッセージについても国・エンティティ情報やハイライト色が表示されるようになりました。


8. Cloudlog関連修正

ホテルなど、通常とは異なる場所・ネットワーク環境からQSOをアップロードする際に発生していたCloudlog関連の問題が修正されています。


9. WSPR / MSK144 / Q65関連の修正

・WSPRモードでのTCI audio問題を修正
・「MSK144/Q65: Tx until 73 is received」を修復
・MSK144の安定性向上

なども行われています。


■ 新機能 TX-Inhibit

これも面白い機能です。

同一バンドで、

WSJT-Xによるデジタル運用
SSB/CW運用

を併用している場合に、PTTが競合して同時送信してしまうような事故を防止するための機能です。

特に複数の無線機やオペレーターを使うクラブ局、マルチオペのコンテスト局などで役立ちそうです。


■ その他

Linux用Debianパッケージの互換性改善。

Hamlibは4.7.2へ更新されています。


■ まとめ

今回のWSJT-X Improved 3.2は、FT8デコーダーそのものを大きく刷新したバージョンというより、

EME/Q65運用環境を一段進化させたバージョン

と見るのが分かりやすいと思います。

特に、

QMAP / MAP65 / WSJT-X / liveCQを連携させ、「誰が聞こえているかを把握し、見つけた局をクリックして、そのままWSJT-Xで交信する」

という方向へかなり進みました。

一方、EMEをやらないFT8/FT4ユーザーにとっても、

・Highlight orange / blueのワイルドカード、除外指定
・ログファイル保存場所の自由化
・ALC表示
・DX Call局だけを表示する機能
・送信中のバンド誤操作防止
・コンテストログ関連修正
・RRRへの国情報・ハイライト
・TX-Inhibit

など、日常運用で便利な改良が多数入っています。

ですので、

「3.2はEME専用アップデートだから、自分には関係ない」

というわけではありません。

なお開発者自身も、大きな変更を含む新バージョンへの更新前には、WSJT-X.iniwsjtx_log.adiをバックアップしておくことを推奨しています。


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